退職後も引き継ぎ作業で呼び出される……残務処理は義務なのか解説

2023年09月28日
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退職後も引き継ぎ作業で呼び出される……残務処理は義務なのか解説

企業を退職した方が、残務処理や引き継ぎのために、退職後も会社側から呼び出される場合があります。

原則として、法律上は、退職日以降に残務処理や引き継ぎを行う義務はありません。仮に「退職後にも残務処理や引き継ぎを行う」と記載された誓約書などを提出したとしても、会社が労働者に対してそれらの作業を無給で残務処理や引き継ぎを行わせることは、労働基準法違反です。

もし、退職後に会社から不当に残務処理や引き継ぎを命じられた場合には、弁護士にご相談ください。本コラムでは、退職後に残務処理や引き継ぎを行う義務の有無や、退職に関するトラブルを弁護士に相談すべきケースなどについて、ベリーベスト法律事務所 高松オフィスの弁護士が解説します。


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1、退職後に残務処理をする義務はない

会社を退職した従業員は、会社のために残務を処理する義務を負いません。

従業員が会社のために働く義務は、労働契約に基づいて発生します。
しかし、退職した後は会社との労働契約は終了するため、会社のために働く義務も発生しなくなるのです
退職前に処理していた業務が残っている場合でも、退職後に処理する必要はありませんので、別の従業員に引き継いでもらいましょう。

2、退職後の残務処理に同意する誓約書を提出したらどうなる?

従業員が会社を退職する際、会社から残務処理をすることに同意する旨の誓約書の提出を求められることがあります。
しかし、このような内容の誓約書を提出したとしても、会社のために無給で残務処理をする義務は負わないのです。

  1. (1)無理やり誓約書を提出させられた場合|強迫によって取り消し得る

    会社がその優越的な立場を悪用して、「誓約書を提出しなければ、業界内に悪評を言いふらしてやる」「誓約書を提出しなければ、退職金を支払わない」などと言い、従業員を脅すようなかたちで、無理やりに誓約書を提出させる場合があります。

    会社の脅しを受けて誓約書を提出した場合、従業員は「強迫」によってその誓約書を取り消すことができます(民法第96条第1項)。
    誓約書を取り消せれば、退職した従業員は、会社のために残務処理をする義務を負いません。

  2. (2)誓約書の内容があまりにも過酷な場合|公序良俗違反により無効

    誓約書の内容が退職した従業員にとってあまりにも過酷である場合、公序良俗違反によって誓約書が無効となる可能性が高いといえます(民法第90条)。
    具体的には、以下のような場合です。

    • 残務処理の範囲があまりにも広範に及ぶ場合
    • 残務処理を完了するまでに長期間を要する場合
    • 残務処理によって、転職先の会社における業務に大きな支障が生じる場合


    誓約書が公序良俗違反により無効となった場合にも、退職後は、会社のために残務処理をする義務を負わなくなります。

  3. (3)残務処理=労働|賃金の支払いを請求できる

    誓約書による残務処理の約束が有効であるとしても、退職後の従業員に無給で残務処理をさせることは認められません。
    従業員時代に行っていた業務の残務処理は、従業員時代と同様に、会社の指揮命令下で行う「労働」にあたります。
    残務処理も労働にあたる以上は労働基準法が適用されるため、会社は退職した従業員に対して賃金を支払わなければなりません。

    原則として、会社が退職した従業員に支払うべき賃金額は、両者の間の合意によって決まります。
    ただし、残務処理について賃金の合意が明示的になされていない場合には、当事者の意思を合理的に解釈して賃金額が決定されます。
    退職前の賃金が維持されるケースもあれば最低賃金が適用されるケースなどもありますが、具体的な取り扱いは事案ごとに異なります。

3、退職トラブルについて弁護士に相談すべきケース

退職する際に会社から以下のような取り扱いを受けてしまったら、弁護士に相談することを検討してください。



  1. (1)退職後の残務処理を命じられた

    退職した労働者は、原則として、会社の残務を処理する義務を負いません。
    退職時をもって、労働契約はすでに終了しているためです。

    「引き継ぎが終わっていないから」「後任者を採用するまでに時間がかかるから」「取引先への退職挨拶が必要だから」などの理由で会社が残務処理を行うことを要求してきたとしても、それらはすべて法的に根拠がない要求であるため、遠慮せずに断りましょう。
    また、退職時に残務処理を行う旨の誓約書を提出していたとしても、強迫による取り消しや、公序良俗違反による無効が認められる可能性があります。
    さらに、仮に誓約書が有効であったとしても、会社が無給で労働者に残務処理を行わせることは労働基準法違反です
    もし会社から上記のような要求を受けたり、残務処理を行うように強要されたりしたら、ご自身の権利を守るためにも弁護士に相談してください。

  2. (2)残務処理が終わるまで退職金を支払わないと言われた

    就業規則で退職金が設定されている場合や、労働契約において退職金の定めがある場合には、会社はルールにしたがって退職金を支払わなければなりません

    業務が残ったまま退職した場合であっても、それを理由に退職金の支払いを保留することは労働契約違反となります。
    もし会社に退職金の支払いを拒否されたら、退職金を請求するために弁護士に相談しましょう。

  3. (3)残務があることを理由に給料を減らされた

    残務を処理せず退職したことを理由にして、会社が労働者の給料を減額することも、労働基準法違反にあたります。
    従業員の給料は、労働時間に応じて支払われなければなりません。
    業務を残した状態で退職したとしても、それまで働いた労働時間について発生した給料を減額することは違法です
    また、残務があることを理由に給料の支払いを保留することは、「全額払いの原則」「毎月一回以上払いの原則」「一定期日払いの原則」などにも違反します(労働基準法第24条第1項、第2項)。

    もし会社から給料を減らされてしまったら、弁護士に相談して、給料を取り戻すための対応を行いましょう。

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4、退職トラブルについて弁護士ができる対応

会社を退職するにあたってトラブルに巻き込まれてしまったら、不当な仕打ちに対抗するため、弁護士に依頼しましょう。

  1. (1)会社に対する反論

    退職する従業員は、会社側からすれば「間もなく会社の戦力ではなくなる存在」であるために、不当な取り扱いを受けやすい立場にあります。

    弁護士に依頼すれば、法律的な根拠に基づいた反論を会社に対して行い、不当な取り扱いを撤回するように要求することができます。
    もし裁判などの法的手続きに発展した場合にも、専門的な知識に基づき、会社の対応の違法性を効果的に訴えることができます

  2. (2)退職交渉の対応

    労働者自身で会社との退職交渉を行うことには、会社の主張がどれほど合法的なのかがわからず、不当な内容で合意を締結してしまうリスクが存在します。

    退職条件や残務処理の取り扱いなどに関する会社との交渉については、弁護士に代理人を依頼することもできます
    弁護士を代理人にすることで、会社の不当な主張を受け入れることなく、契約や法律のルールが適切に順守されたかたちで退職することができるのです。

  3. (3)労働審判・訴訟の対応

    会社と交渉を行っても給料や退職金の支払いを拒否され続ける場合などには、労働審判や訴訟などの法的手続きを利用する必要も生じます。
    労働審判や訴訟では、労働者側の主張を、証拠に基づきながら説得的に論じる必要があります。
    また、審判や訴訟など手続きには複雑なルールや慣行が存在するため、労働者本人だけで対応することは非常に大変です

    弁護士に依頼すれば、労働審判や訴訟などの法的手続きについても、代理人として対応してもらうことができます。

5、まとめ

会社を退職した後に残務処理や後任担当者への引き継ぎなどを求められたとしても、原則として、その要求に応じる義務はありません
また、誓約書などに基づいて残務処理などを行うとしても、無給で業務をさせられることは労働基準法違反にあたります。
さらに、残務処理が終わっていないことを理由に退職金の支払いを保留したり、給料を減額したりすることも違法なのです。

退職時に会社から不当な取り扱いを受けた場合には、ご自身の権利を守るためにも、弁護士に相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所にご連絡いただければ、労働問題の経験豊富な弁護士が、親身になって対応いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています