親が連帯保証人だったとき相続しない方法とは? 弁護士が解説

2023年04月20日
  • 遺産を受け取る方
  • 連帯保証人
  • 相続
親が連帯保証人だったとき相続しない方法とは? 弁護士が解説

令和2年度の司法統計によると、高松家庭裁判所における遺産分割事件の総数は114件でした。相続が始まると、死亡した人(被相続人)から聞いていなかった事実が発覚するなどして、思わぬトラブルにつながることは珍しくありません。

一方、亡くなった父親や母親が、実は他人の連帯保証人になっていたというケースもあります。こうした事実が判明した場合、どのように対応すれば良いのかわからず悩まれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。そもそも連帯保証人の立場は相続されるのか、また、親が連帯保証人と知らずに相続してしまった場合、どうすれば良いのでしょうか。

本コラムでは、亡くなった親が連帯保証人だった場合の疑問や対処方法について、ベリーベスト法律事務所 高松オフィスの弁護士が解説します。


遺産相続についてはこちら 遺産相続についてはこちら

1、連帯保証人としての地位も相続される

親が連帯保証人だったと知らずに相続してしまった場合でも、連帯保証人としての地位は相続対象になります。

  1. (1)連帯保証人の地位は相続対象

    被相続人が誰かの借金を連帯保証していた場合、相続人は、その地位を相続するため、連帯保証人としての地位も相続の対象となります。

    借金をした本人である主債務者が返済しない場合には、連帯保証人の地位を相続した相続人が返済義務を負いますので、支払いができないのであれば、自己破産せざるを得なくなる可能性もあります

  2. (2)相続人が複数いる場合の相続方法

    相続人が複数いる場合には、法定相続分に応じて連帯保証債務が相続されます

    たとえば、父親が亡くなり、母親・長男・次男で相続をする場合において、父親の連帯保証債務額が1000万円であれば、母親は500万円、子どもたちはそれぞれ250万円ずつの債務を相続することになります。

  3. (3)相続の対象にならない保証債務

    連帯保証債務は相続されますが、保証にはいくつか種類があり、すべての保証債務が相続されるわけではありません。

    継続的な取引から生じる債務を個人が包括的に保証するものとして、「根保証」があります。「根保証」について、限度額および期間の定めがない場合、保証人の死後生じた債務は相続の対象外とされています。ただし、保証人の死亡前に具体的に確定した債務については相続の対象となります
    一方、「根保証」について、限度額および期間の定めがある場合、相続の対象となり得ます。

    息子が会社に入るときなどに親が身元保証するケースがありますが、そういった身元保証人の地位も相続されません。ただし、保証された人が不祥事を起こすなどして保証人の死亡前に債務が既に具体的に確定していれば、相続されます。

2、親が連帯保証人かどうかを調べる方法は?

死亡した親が誰かの連帯保証人になっているかどうかわからない場合、どうやって調べたら良いのでしょうか?

  1. (1)借用証、金銭消費貸借契約書を探す

    まずは自宅に借用証や金銭消費貸借契約書がないか、探しましょう。タンスや棚、机の引き出しなどにしまわれているケースもありますし、無造作に置いてある可能性もあります。親が事業者だった場合には必ず事業所を細かくチェックしましょう。

  2. (2)通帳の振り込み履歴を調べる

    亡くなった親の通帳を確認し、知らない業者や個人に振り込みをしている履歴などがないか確認しましょう。

  3. (3)振込証を探す

    財布や自宅内、事業所などに知らない貸金業者や金融機関、個人などに振り込みをしている振込証などが保管されていないか、確認しましょう。

  4. (4)不動産賃貸借契約書を探す

    不動産の賃貸借契約でも連帯保証人をつけるケースが多数あります。自宅内に他人の連帯保証人になっている賃貸借契約書がないか、調べましょう。

  5. (5)郵便をチェックする

    連帯保証していると、債権者から通知書や督促状が届いているケースもあります。銀行などの金融機関やカード会社、ローン会社などから連帯保証をうかがわせる内容の書類が届いていないか、郵便受けを確認して調べましょう。

3、連帯保証人の地位を相続したくないなら相続放棄しよう

父親や母親が亡くなったとき、連帯保証人の地位を相続したくないならば、「相続放棄」が有効な対処方法となります。

  1. (1)相続放棄とは

    相続放棄とは、相続人であっても相続開始による包括承継の効果を全面的に拒否するための手続きです。家庭裁判所で「相続放棄の申述」を行い受理してもらうことにより「はじめから相続人にならなかった」扱いになります。相続人ではないので資産も負債も連帯保証人の地位も一切相続せず、主債務者が返済をしない場合にも責任を負う必要はなくなります。
    ただし相続放棄すると負債や保証債務などの消極財産だけではなく預貯金や不動産などの積極財産も相続できなくなるので、資産が多い場合には安易に相続放棄しない方が良いケースもあります。
    なお相続放棄しても生命保険金を受け取ることは可能です。

  2. (2)相続放棄の方法

    相続放棄をするときには、以下のように手続きを進めましょう。

    • 家庭裁判所で申述をする
    • 相続放棄の申述は「家庭裁判所」で行います。裁判所の管轄は「被相続人の最終の住所地の家庭裁判所」です。該当する家庭裁判所を探して「相続放棄の申述書」を提出しましょう。

    • 必要書類
    • 相続放棄するときには、相続放棄の申述書以外に以下の書類が必要です。

      相続放棄に必要な書類 取得方法
      被相続人の住民票除票または戸籍附票 被相続人の最終の住所地の市区町村役場で申請して取得しましょう
      申述人(放棄する相続人)の戸籍謄本 申述人の本籍地の市区町村役場で申請すれば取得できます
      被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本または改製原戸籍謄本) 被相続人の本籍地の市区町村役場で申請すれば取得できます


      住民票や戸籍謄本は、郵送での取り寄せも可能です。被相続人の最終の住所地や本籍地が遠方であれば、郵便局で「定額小為替」を購入して郵送で申請し、返送してもらいましょう。

    • 相続放棄にかかる費用
    • 収入印紙800円分と郵便切手が必要です。切手の金額と内訳は各地の裁判所で確認しましょう。

    • 相続放棄の流れ
    • 相続放棄の流れは、以下の通りです。

      相続放棄の流れ 詳細
      STEP1 相続放棄の申述書と必要書類を提出 まずは管轄の家庭裁判所に相続放棄の申述書と必要書類、印紙と郵便切手を提出します
      STEP2 裁判所から「相続放棄照会書」が届く 裁判所から「相続放棄の照会書」という書類が送られてきます。回答用の書式も一緒についてきます
      STEP3 相続放棄照会書に対する回答書を返送する 回答書に必要事項を記入して家庭裁判所へ返送します
      STEP4 家庭裁判所から「相続放棄の受理書」が送られてくる 問題がなかったら家庭裁判所で相続放棄が受理されて、申述人宛てに相続放棄の受理書が送られてきます。これで正式に相続放棄できたことになります

  3. (3)相続放棄の期限

    相続放棄には「期限」があるので注意しましょう。基本的に「相続発生を知ってから3か月以内」に相続放棄申述の手続きをしなければなりません。この3か月の期間を「熟慮期間」と言います。熟慮期間を過ぎると「単純承認」が成立して、一切の資産と負債(連帯保証債務を含む)を相続したことになってしまいますその後に「やっぱり相続放棄したい」と思っても受理してもらうことは不可能です

    また、熟慮期間が経過する前であっても遺産の一部を処分したら単純承認が成立して相続放棄はできなくなります。

    親が死亡したときに連帯保証人になっている可能性が少しでもあるなら、すぐに事実確認をして相続放棄するかどうか決め、するなら可能な限り早く手続きしましょう。

まずはお気軽に
お問い合わせください。
電話でのお問い合わせ
【通話無料】平日9:30~21:00/土日祝9:30~18:00
メールでのお問い合わせ一覧
営業時間外はメールでお問い合わせください。

4、連帯保証人の地位を相続してしまった場合の対処方法

もしも親の連帯保証人の地位を相続してしまった場合には、どのように対応すれば良いのでしょうか?

  1. (1)親が連帯保証人になっていると知りつつ相続した場合

    親が連帯保証人であるとわかっているけれど、それ以上に預貯金などの資産がある場合は、あえて相続を選択する場合があります。また、借金の主債務者がきちんと支払いをしていれば、連帯保証人は支払いをする必要がありません。そのまま完済してくれれば、一切支払いをしなくて良いため問題ないでしょう。

    もし、主債務者が支払いをしないときには、債権者は連帯保証人に請求をしてきます。連帯保証人には「先に主債務者に請求してほしい」「主債務者の財産を先に強制執行してほしい」などと主張する「抗弁権」が認められないので、請求を受けたら払うしかありません。一括払いができない場合には、債権者と話し合って分割払いにできる可能性もあります。

    連帯保証人が主債務者の代わりに借金を返済した場合、連帯保証人は主債務者に「求償権」を行使できます。求償権とは、連帯保証人や連帯債務者が支払いをしたときに、主債務者や他の債務者へ負担分の返還を求める権利です。連帯保証人はもともと借金をした本人ではないので、代わりに返済をしたら本人に全額の返還を請求できるのです。

    債権者への支払いを済ませたら、早めに主債務者本人に連絡を入れて求償権についての話し合いを開始しましょう。どのような方法をとるべきか、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

  2. (2)親が連帯保証人になっていると知らずに相続した場合

    親が連帯保証人になっていることに気づかないまま3か月が経過して、単純承認が成立してしまうケースもあります。そのようなときでも、相続放棄が認められる可能性があります。

    判例では「相続人が『遺産がない』と信じており、信じたことに正当理由がある場合」には相続開始を知ってから3か月が経過しても相続放棄が認められた事例があります。そういった特殊事情を証明すれば、相続発生後3か月を超えていたとしても、連帯保証債務を免れられる可能性があります。

    一方、遺産を処分してしまい相続放棄ができない場合は、任意整理などの債務整理をするのも有効です。債務整理により、借金の利息を減額してもらえたり分割払いできたりする可能性があるので、検討してみましょう。
    どうしても支払えない場合には、自己破産も一案です。どのような方法が最適か、まずは早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

5、まとめ

親が連帯保証人になっていた場合、すぐに相続放棄や限定承認をすべきか検討を始めましょう。もしも相続放棄するなら、3か月の熟慮期間内に確実に申述をしなければなりません。

借金を背負わされて思わぬ不利益を受けないようにするためには、相続が発生した当初から弁護士によるアドバイスを受けておくと安心です。ベリーベスト法律事務所には弁護士と税理士が在籍しており、遺産相続時の連帯保証トラブルのみならず遺産分割協議や相続税の問題にもワンストップで一括対応しています。お困りの際には、ベリーベスト法律事務所 高松オフィスまで、お早めにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています