亡くなる3年以内に受けた贈与に税金が!? 相続時に注意すべきこと
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高松市を管轄する高松国税局が公表している令和2年分の贈与税の申告状況によると、贈与税の申告書の提出人数は、1万2495人であり、そのうち申告納税額がある方は8484人でした。
将来の相続税対策として、毎年110万円までの贈与税の非課税枠を利用した暦年課税制度を利用した生前贈与が行われるケースが多くあります。しかし、贈与をした方が亡くなる3年以内に行われた贈与については、相続財産に加算されてしまうということを知らない方が多くいらっしゃいます。生前贈与加算についての正確な知識がなければ、相続時に思わぬ税金を支払わなければならないことがありますので、注意が必要です。
今回は、相続対策として生前贈与を利用する方に向けて生前贈与加算についての基本的事項について、ベリーベスト法律事務所 高松オフィスの弁護士が解説します。
1、贈与で受けられるメリット
生前贈与をすることには、以下のようなメリットがあります。
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(1)相続時の相続税の節税効果がある
相続開始時の相続財産が相続税の基礎控除額を超える場合には、原則として相続税が課税されることになります。相続税の基礎控除額は、以下のように計算されますので、相続時の相続財産の金額を減らすことができれば、相続税を減らすことが可能です。
相続税の基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
生前贈与は、後述する特例や控除と組み合わせて利用することによって、贈与税の負担なく財産を渡すことが可能です。それによって、相続開始時の相続財産の総額を減らすことができますので、結果として全額が相続財産になった場合に比べて大幅な節税効果が期待できるといえます。
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(2)特例や控除を利用することで贈与税の節税も可能
財産を贈与した場合には、贈与した財産に対して贈与税が課税されます。しかし、特例や控除をうまく利用することによって贈与税を大幅に軽減することが可能です。
もっとも代表的な贈与税の節税制度としては、暦年課税制度というものがあります。これは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与した財産の価額が110万円以内であれば、贈与税が課税されないというものです。
年間110万円までですが、長期的に暦年課税制度を利用して財産を移転することができれば、贈与税の節税だけでなく、将来の相続税の節税にもつながります。税務署などへの申告も不要ですので、誰でも簡単にできる贈与税の節税対策だといえます。 -
(3)財産を渡す相手や時期を自由に選べる
相続が開始した場合には、遺言書などを残さない限りは、財産を渡す相手や渡す財産の内容を選択することはできません。
これに対して、生前贈与は、贈与者が財産を渡す相手、渡す財産の内容、渡す時期を自由に選ぶことができます。親族以外にも生前贈与をすることができますので、お世話になった方に感謝の気持ちで財産を渡したいという場合にも利用される手段です。
2、亡くなる3年以内の贈与の扱い
暦年課税を利用することによって、贈与税の負担なく財産を移転することができます。しかし、相続開始前3年以内に行われた贈与については、相続税の対象になることがありますので注意が必要です。
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(1)相続開始前3年以内の贈与加算とは
相続開始前3年以内の贈与加算とは、相続人が贈与した人が亡くなる3年以内に贈与を受けていた場合には、相続税の課税価格に贈与時の価格を加算するという制度です。このような生前贈与加算が行われるのは、亡くなる直前に相続税逃れのために行われる駆け込み贈与を防止するという理由があります。
したがって、暦年課税制度を利用した贈与については、年間110万円までであれば贈与税がかかりませんが、その贈与が相続開始前3年以内に行われたものである場合には、相続税の対象となってしまいます。 -
(2)生前贈与加算の対象となるケース
生前贈与加算の適用対象となるのは、以下のケースです。
① 相続や遺贈により財産を取得した人
生前贈与加算が適用されるのは、相続や遺贈により財産を取得した人です。法定相続人かどうかではなく、実際に遺産を取得したかどうかが基準となります。そのため、相続人以外の人であっても、遺言によって遺産を取得した場合には生前贈与加算が適用されることになります。
② みなし相続財産の受取人
相続などによって財産を取得した人には、遺産だけでなく、みなし相続財産を受け取った人も含まれます。みなし相続財産とは、民法上の遺産には含まれないものの、相続税法上相続財産として扱う財産のことをいいます。具体的には、以下のものが挙げられます。- 死亡退職金
- 被相続人が保険料を負担していた生命保険の死亡保険金
- 年金や保険金を定期的に受け取る権利(定期金の権利)
- 満期保険金を受け取ることができる生命保険契約に関する権利
- 債務免除
したがって、被相続人から死亡保険金を受け取った孫なども生前贈与加算の適用対象となります。
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(3)すでに贈与税を払っていた場合の取り扱い
年間110万円を超える贈与をしていた場合には、基礎控除額である110万円を超える部分に対して贈与税が課税されます。では、生前贈与加算の対象となる相続開始前3年以内の贈与において贈与税を支払っていた場合にも相続税の対象となってしまうのでしょうか。
このような場合には、相続税の計算の際にすでに支払った贈与税の金額を控除することができますので、二重に課税されることはありません。そのため、生前贈与加算の対象となる贈与における贈与税額が相続税額を上回っている場合には、相続税が発生しませんので、相続税を納める必要はありません。
3、生前贈与加算の対象にならないケース
亡くなる3年以内の贈与は、上記のとおり相続税に加算されることになりますが、以下のようなケースでは、例外的に生前贈与加算の対象とはなりません。
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(1)贈与税の配偶者控除
贈与税の配偶者控除とは、配偶者が被相続人の生前に居住用不動産の購入または建築資金の贈与を受けたときに、贈与された金額から2000万円までを控除することができるという制度です。
贈与税の配偶者控除を受ける場合には、以下の要件を満たす必要があります。- ① 婚姻期間が20年以上であること
- ② 今までに配偶者控除を受けていないこと
- ③ 贈与財産が居住用不動産または居住用不動産の取得資金であること
- ④ 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、居住用不動産に居住し、その後も引き続き居住する見込みであること
- ⑤ 贈与税の申告をすること
このような贈与税の配偶者控除を利用した贈与が相続開始前3年以内に行われたとしても生前贈与加算の対象にはなりません。
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(2)結婚・子育て資金の一括贈与
結婚・子育て資金の一括贈与とは、祖父母や両親が20歳以上50歳未満の子どもや孫に対して、結婚・子育て用のお金を1人につき1000万円まで(結婚資金は300万円まで)非課税で贈与をすることができるという制度です。
結婚・子育て資金の一括贈与の制度を利用する場合には、信託銀行などの金融機関との間で、結婚・子育て資金管理契約を締結し、専用の口座を開設する必要があります。
このような結婚・子育て資金の一括贈与を利用した贈与が相続開始前3年以内に行われたとしても生前贈与加算の対象にはなりません。 -
(3)教育資金の一括贈与
教育資金の一括贈与とは、祖父母や両親が30歳未満の子どもや孫に対して、教育資金を贈与する場合に、一定の要件を満たすことで最大1500万円までが非課税となる制度のことをいいます。
教育資金の一括贈与を利用する場合も、結婚・子育て資金の一括贈与と同様に金融機関で専用の口座を開設する必要があります。
このような教育資金の一括贈与を利用した贈与が相続開始前3年以内に行われたとしても生前贈与加算の対象にはなりません。 -
(4)住宅取得等資金の贈与
住宅取得等資金の贈与とは、祖父母や父母が子どもや孫に対して、住宅の新築、購入、増改築費用を贈与する場合に、最大で3000万円までが非課税となる制度のことをいいます。
ただし、同制度を利用するためには、令和5年12月31日までに契約をする必要がありますので注意が必要です。
このような住宅取得等資金の贈与を利用した贈与が相続開始前3年以内に行われたとしても生前贈与加算の対象にはなりません。
4、生前贈与がある相続で弁護士に相談すべきトラブル
相続時には、被相続人の生前に行われた贈与をめぐって相続人同士でトラブルが生じることがあります。このような場合には、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)各相続人同士で贈与を受けたと認識している額が異なるケース
遺産分割においては、各相続人が得た生前贈与のうち特別受益に該当するものについては、相続財産に持ち戻して計算することが認められています。そのため、生前贈与の有無および金額を明らかにすることによって、生前贈与を受けなかった相続人は、遺産分割時により多くの遺産を得ることが可能となります。
しかし、各相続人同士で贈与を受けたと認識している金額が異なる場合には、持ち戻しの対象となる財産の金額が定まらず、遺産分割協議が難航することがあります。過去の生前贈与の有無や金額については、弁護士による調査によって明らかにすることができる可能性もありますので、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。 -
(2)贈与分が遺留分を侵害しているケース
被相続人が遺言書を残していた場合には、遺言書の内容に従って遺産を分けることになります。しかし、遺言書の内容によっては、一部の相続人のみを有利に扱い、他の相続人の遺留分を侵害する内容であることがあります。このような場合には、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使することによって、侵害された遺留分に相当する金銭を請求することができます。
そして、生前贈与が行われているケースでは、以下のような条件を満たす生前贈与については、遺留分を侵害する贈与として相続財産に含めて計算することが認められています。- ① 相続開始前の1年間に行われたすべての贈与
- ② 遺留分を侵害する認識のもとで行われた贈与
- ③ 相続開始前の10年以内に行われた共同相続人に対する特別受益に該当する贈与
生前贈与の有無および金額を明らかにしていくことによって、遺留分として請求することができる金額も大きく異なってきますので、調査や交渉などを弁護士に依頼することをおすすめします。
5、まとめ
生前贈与は、将来の相続税対策として広く利用されている方法です。特例や控除を利用することで贈与税の節税をしながら、相続税の節税としても有効な手段となりますので、専門家のアドバイスを得ながら早めに準備をしていくようにしましょう。
ベリーベスト法律事務所には、弁護士だけでなく税理士も在籍しておりますので、税理士法人と連携した対応が可能です。法律面だけでなく税金面からの対策も可能ですので、生前贈与や相続に関するお悩みには、ベリーベスト法律事務所 高松オフィスにお任せください。
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