堕胎罪の定義とは? 暴力や事故で中絶した場合はどうなるのか
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厚生労働省が公表している人工妊娠中絶数の状況に関する資料によると、令和2年の人工妊娠中絶数は、14万5340件でした。そのうち、香川県内での人工妊娠中絶数は、967件でした。
望まない妊娠をしてしまった方にとって、人工妊娠中絶はひとつの手立てです。一方で、何らかの事故や暴力によって胎児が亡くなり、やむを得ず中絶という選択をする方もいるかもしれません。このような場合、中絶をした本人は何らかの罪に問われるのでしょうか。また、中絶の原因をつくった相手に対して慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
今回は、堕胎罪の定義と暴力や事故で中絶をした場合の扱いについて、ベリーベスト法律事務所 高松オフィスの弁護士が解説します。
1、堕胎罪とは? 殺人罪との違いは何?
堕胎とは、人工的に妊娠を中絶し胎児を排出させる行為です。「堕胎罪」は、ただ堕胎をすれば罪に問われるというわけではなく、一定の条件のもと堕胎をすると成立します。
堕胎罪とはどのような犯罪か、また、堕胎罪と殺人罪ではどのような違いがあるのか解説していきます。
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(1)堕胎罪の概要
堕胎罪とは、自然の分娩(ぶんべん)期よりも前に人工的に胎児を母体から排出・分離させる行為を内容とする犯罪です。
堕胎罪としては、刑法上、以下の種類が規定されています。① 自己堕胎罪
自己堕胎罪とは、妊娠中の女性が薬物またはその他の方法によって堕胎したときに成立する犯罪です(刑法212条)。
自己堕胎罪の法定刑は、1年以下の懲役と定められています。
② 同意堕胎罪
同意堕胎罪とは、妊娠中の女性の嘱託または承諾を得て、妊娠中の女性以外の他人が堕胎させたときに成立する犯罪です(刑法213条)。
同意堕胎罪の法定刑は、2年以下の懲役と定められています。
③ 業務上堕胎罪
業務上堕胎罪とは、妊娠中の女性の嘱託または承諾を得て、医師、助産師、薬剤師、医薬品販売業者が堕胎させたときに成立する犯罪です(刑法214条)。
業務上堕胎罪の法定刑は、3月以上5年以下の懲役と定められています。
④ 不同意堕胎罪
不同意堕胎罪とは、妊娠中の女性の嘱託または承諾を得ることなく、妊娠中の女性以外の他人が堕胎させたときに成立する犯罪です(刑法215条)。
不同意堕胎罪の法定刑は、6月以上7年以下の懲役と定められています。 -
(2)堕胎罪と殺人罪の違い
中絶によって胎児を殺すことになりますが、殺人罪は適用されません。堕胎罪と殺人罪に、どのような違いがあるのでしょうか。
殺人罪は、「人」を殺すことによって成立する犯罪です。一方、母胎内にいる胎児は、刑法上は「人」にはあたらないとされています。そのため、母胎内の胎児が死傷したとしても、胎児に対する殺人罪は成立しません。
2、自分で中絶を選んだら、堕胎罪になる? 強要された場合は?
自分で中絶を選択した場合には堕胎罪に問われることがあるのでしょうか。また、どのようなケースであれば堕胎罪に問われるのでしょうか。
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(1)母体保護法の要件を満たせば堕胎罪に問われることはない
人工妊娠中絶は、自然の分娩期よりも前に人工的に胎児を母体から排出・分離させる行為ですので、それだけみれば堕胎罪の要件に該当するようにも思えます。
しかし、母体保護法という法律によって、一定の要件を満たす人工妊娠中絶については、適法に行うことができるとされています。
人工妊娠中絶を適法に行うためには、以下の要件を満たす必要があります。- 妊娠22週未満であること
- 指定医師による中絶手術であること
- 本人および配偶者の同意があること
- 身体的、経済的理由によって妊娠の継続・分娩が母体の健康を著しく害するおそれがあること、または、暴行・脅迫により抵抗・拒絶できない間に姦淫(かんいん)され妊娠したこと
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(2)堕胎罪に問われる可能性のある中絶とは?
母体保護法の要件を満たさない以下のような中絶については、堕胎罪に問われる可能性があります。
① 妊娠22週以降の中絶
母体保護法では、妊娠22週未満の中絶については、適法に行うことができますが、それ以降の中絶については、違法となりますので堕胎罪が成立する可能性があります。
② 指定されていない医師による中絶
中絶手術を行うことができるのは、医師会によって指定された医師に限られます。妊娠22週未満であっても指定医師以外による人工妊娠中絶については、違法となりますので堕胎罪が成立する可能性があります。
③ 同意がない中絶
人工妊娠中絶を適法に行うためには、妊婦および配偶者の同意が必要とされています。同意なく人工妊娠中絶をすると不同意堕胎罪が成立する可能性があります。
3、第三者による暴力や事故で堕胎してしまった場合
第三者からの暴力や事故によって堕胎してしまった場合には、堕胎罪が成立することはあるのでしょうか。
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(1)故意がなければ堕胎罪は成立しない
堕胎罪は、故意犯とされていますので、堕胎罪が成立するためには、胎児を母体内で殺害すること、または、自然の分娩期の前に胎児を母体外に分離・排出することの認識が必要になります。
たとえば、交通事故によって妊婦が怪我をした結果、胎児が死亡してしまったという場合には、加害者は胎児を殺害することを認識していませんので、妊婦を故意にひいたという例外的なケースを除いては、堕胎罪が成立することはありません。
また、暴力によって流産してしまったという場合にも、妊婦であることを知っていたという場合には、堕胎罪が成立する可能性がありますが、そうでない場合には堕胎罪が成立することはありません。 -
(2)堕胎罪以外に成立する可能性のある犯罪
第三者による暴力や事故によって、堕胎罪が成立しない場合でも以下のような犯罪が成立する可能性があります。
① 暴行罪
妊婦であることを知らなかったとしても、他人に対して暴行を加えることは、違法な行為ですので、暴行罪が成立する可能性があります。
暴行罪の法定刑は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料と定められています。
② 傷害罪
胎児は、母体の一部とされていますので、妊婦に対する暴力によって胎児が死亡してしまった場合には、妊婦に対する傷害罪が成立する可能性があります。
傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められています。
4、相手に慰謝料の請求をしたいとき
堕胎罪に問われることがなかったとしても、相手に対して慰謝料を請求できる場合があります。
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(1)慰謝料請求ができるケース
中絶が堕胎罪にあたるかは、あくまでも刑事事件としての問題です。
したがって堕胎罪に該当しなくても、違法な行為によって損害を被った場合には、民事事件として、相手に対して損害賠償請求をすることができます。
たとえば、配偶者からの暴力によって中絶することになった場合には、慰謝料を請求することができます。
また、強制性交などの性的犯罪により望まない妊娠をした場合にも中絶をすることがありますが、この場合にも加害者に対して慰謝料を請求することができます。 -
(2)対応が難しい場合には弁護士に相談を
中絶による慰謝料請求の問題は、非常にデリケートな問題となりますので、ご自身やご家族での対応が難しいケースも多いといえます。そのような場合、弁護士に相談をすることをおすすめします。
弁護士であれば、ご本人に代わって相手と交渉を進めることができるため、DVをした配偶者や性的犯罪の加害者とのやり取りをする負担を軽減することができます。
また、DV被害を受けている場合には、命の危険もありますので、早めに相手と離れる決断をすることも必要となります。弁護士は、慰謝料請求だけでなく、離婚や接近禁止命令などの法的手段によって安全な生活環境をつくるためのサポートもいたします。
中絶に関する慰謝料請求をお考えの方は、まずは、弁護士にご相談ください。
5、まとめ
望まない妊娠をしてしまったという場合には、人工妊娠中絶をすることができます。また、一定の要件を満たす人工妊娠中絶については、堕胎罪に問われることはありません。
何らかの事故や暴力によって胎児が亡くなった場合には、相手に対して慰謝料請求をできる可能性があります。胎児が亡くなることは、精神的にも肉体的にも大きな負担です。相手に対して慰謝料請求をしていくのが難しいと感じたら、弁護士に対応をお任せください。
ベリーベスト法律事務所 高松オフィスには、慰謝料請求や男女問題の解決実績のある弁護士が在籍しております。丁寧に状況をヒアリングし、問題解決に向けてサポートいたしますので、まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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