労働組合から団体交渉を申し込まれた場合の最適な対応とは
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令和4年度に香川県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は1万406件でした。
労働組合から団体交渉を申し込まれたら、会社側は正当な理由なく拒否することができません。団体交渉が決裂すればストライキや法的手続きなどに発展する可能性もあるため、労働者側の主張にも耳を傾けつつ、円満な妥結を目指すことが大切です。
本コラムでは、労働組合から団体交渉を巻き込まれた会社がとるべき対応について、ベリーベスト法律事務所 高松オフィスの弁護士が解説します。
1、労働組合との団体交渉とは
労働組合は、会社に対して、労働条件や労働環境に関する団体交渉を申し入れることがあります。
団体交渉の申し入れを受けた会社は、正当な理由なく団体交渉を拒否することができません。
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(1)団体交渉の意義
団体交渉とは、会社と労働組合の間で行われる、労働条件や労働環境に関する交渉のことを指します。
労働者(従業員)個人は一般的に、会社と比較して資金力・組織力・知識など大きく劣ります。
そのため、労働者個人で労働条件や労働環境について会社と交渉しても、なかなか会社に受け入れてもらえないことが多いといえます。
このような状況に対処するため、日本国憲法では、労働者(勤労者)の団体交渉権を保障しています。
つまり、労働者には、労働組合を組織して一致団結して会社に対する要求を行う権利が憲法によって保障されています。
また、日本国憲法における団体交渉権は、労働組合法によって具体化されているのです。
多数の労働者が一致して要求をしてくれば、会社もそれを無視することは難しいでしょう。労働組合による団体交渉は、会社に対して弱い立場にある労働者が団結して、会社との間で対等な交渉ができるようにすることを目的としたものです。 -
(2)団体交渉の流れ
会社と労働組合の団体交渉は、以下のような流れで行われます。
① 日時・場所・出席者の決定
団体交渉の日時・場所・出席者などを、会社と労働組合が交渉して事前に決めます。
② 団体交渉
労働条件や労働環境の改善案などについて、会社と労働組合が実際に交渉します。
③ 合意の成立
会社と労働組合が労働条件や労働環境の改善に合意したら、その内容を書面にまとめて締結します。
④ 合意不成立の場合|法的手続き
団体交渉が決裂した場合は、労働委員会の紛争解決手続きや、労働審判・訴訟などを通じて引き続き争います。 -
(3)正当な理由なく団体交渉を拒否することは違法
団体交渉権は、労働者に保障された憲法上の権利です。
そのため、使用者側が一方的に団体交渉を拒否することは認められません。
労働組合法第7条第2号では、使用者が正当な理由なく、労働組合との団体交渉を拒否することを禁止しています。
同規定に違反して団体交渉を拒否した場合は「不当労働行為」にあたり、労働委員会による審査や損害賠償請求の対象になり得るという点に注意してください。
2、団体交渉が決裂したらどうなる?
以下では、団体交渉が決裂した場合に発生する可能性がある事態について解説します。
いずれの事態も会社にとって大きなコストがかかるため、労働組合側の主張に耳を傾けて、必要に応じて歩み寄りながら合意を目指すことが大切です。
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(1)ストライキが行われる
「ストライキ(同盟罷業)」とは、労働組合が主導して、労働者が一斉に休業することをいいます。
ストライキに正当性が認められる場合、形式的には犯罪の構成要件を満たす行為であっても刑法上の違法性を否定され刑罰を科されない(労働組合法1条2項「刑事免責」)、会社に損害が生じたとしても、債務不履行責任や不法行為責任が免除される(労働組合法8条「民事免責」)といった法的保護が与えられます。
ストライキに正当性が認められるかどうかは、① 主体、② 目的、③ 態様、④ 手続の4つの観点から判断されます。① 主体
労働組合法上の労働組合であれば、正当性が認められます。
組合員の一部が組合の正式な承認を得ずに独自に行う場合には正当性が否定されます。
② 目的
労働条件の維持・向上を目指して行われるものであることが必要です。政治的な目的のために行われるものは正当性が否定されます。
③ 態様
暴力の行使、会社の財産を破壊する等の財産権を侵害する行為は正当性が否定されます。
④ 手続
団体交渉を経ていることが必要となります。もっとも、会社が団体交渉の場につくこと自体を拒否している場合には、団体交渉を経ていなかったとしても正当性は否定されません。
ストライキが行われると、会社の事業の全部または一部が停止してしまうため、売り上げや利益が大きく削られてしまうことになります。
そして、正当なストライキによって会社に生じた損害については、会社は労働組合やその組合員に対して賠償を請求することができませんので、ストライキは労働者にとって強力な武器となります。 -
(2)違法状態を労働基準監督署に申告される
労働組合が会社の労働基準法違反や労働安全衛生法違反を指摘している場合には、団体交渉が決裂すると、労働基準監督署に対して申告が行われる可能性があります。
労働者側の申告を受けた労働基準監督署は、会社に対して違法状態の有無の調査を行うことがあります。
違法状態が発見された場合、労働基準監督署は会社に対して行政指導などを行います。
悪質な労働基準法違反については、刑事罰の対象にもなり得ます。
労働基準監督署により違法状態を指摘されると、その対応にコストを割く必要が生じるほか、社会的な評判が毀損される事態になりかねません。
労働組合の違法状態に関する指摘が正しい場合は、労働基準監督署へ申告される前に、速やかに是正の措置を講じることが大切です。 -
(3)法的手続きに発展する
団体交渉が決裂した場合、労働組合は以下のような法的措置を講じてくる可能性があります。
① 労働委員会への審査申立て
厚生労働省および各都道府県に設置された労働委員会が、会社側の不当労働行為の有無を審査します。
② 労働委員会の個別労働紛争のあっせん手続き
労働委員会の仲介により、団体交渉で問題となった争いの解決を図ります。
③ 労働審判
労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、団体交渉で問題となった争いについて調停よる解決を図ります。調停が成立しない場合は、審判を行って解決策を示します。
労働審判の審理が原則3回以内に完結するので、訴訟よりも迅速に解決を得られるメリットがあります。
④ 訴訟
裁判所の公開法廷において、労働者側の請求の当否を争います。証拠に基づく厳密な立証が求められる点や、手続きが長期化しやすい点が大きな特徴です。
これらの法的手続きへの対応には、会社側としても多くのコストがかかります。
そのため、できる限り団体交渉の段階で合意し、法的手続きに発展すること自体を回避するのが望ましいといえます。
3、労働組合に団体交渉を申し込まれた企業の対応
以下では、労働組合に団体交渉を申し込まれた企業がとるべき対応を解説します。
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(1)団体交渉の日程・場所・参加人数などを決める
団体交渉の日程・場所・参加人数について、フェアな交渉が確保されるように取り決めましょう。
日程については勤務時間外、場所については社外の施設、参加人数については労使同数とするのが適切といえます。ただし、合理的な根拠のない日時・場所の指定は団交拒否と判断さるおそれがあります。 -
(2)想定問答をあらかじめ準備する
団体交渉においては、労働組合側からさまざまな要求が行われます。
会社としては、労働組合から事前に通告されている内容をふまえて、労働組合側の要求を予測しておくことが大切です。
予測される要求については応諾するか拒否するかをあらかじめ検討しておき、拒否する場合は合理的な理由付けを準備しておきましょう。 -
(3)会社としてやってはいけないことを確認する
労働組合との団体交渉に関して、会社は不当労働行為をしないように注意しなければなりません。
たとえば、以下の行為は不当労働行為にあたります。- 団体交渉の参加者であることや、団体交渉に関して正当な行為をしたことなどを理由に、労働者に対して解雇その他の不利益な取り扱いをすること。
- 労働組合の団体交渉権を尊重せず、誠意をもって団体交渉に臨まないこと。会社には誠実交渉義務が課せられるため、不誠実な対応に終始する場合、不当労働行為にあたります。
- 労働組合の運営に対して不当に介入すること
とくに労働組合との団体交渉が行われている期間は、不当労働行為を疑われるような行為をあらかじめリストアップしたうえで、厳に慎むように役員や管理職へ周知しましょう。
4、団体交渉を申し込まれたら弁護士に相談を
会社が労働組合から団体交渉を申し込まれたら、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士は、労働組合側の要求の当否を検討したうえで、会社として適切な対応を総合的な観点からご提案いたします。
団体交渉当日にも弁護士が同席して、必要に応じて役員に代わって回答するなどのサポートが可能です。
労働組合による団体交渉の申し入れへの対応にお悩みの企業は、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
労働組合から団体交渉の申し入れを受けた場合、会社は正当な理由なく団体交渉を拒否することができません。
不当に団体交渉を拒否すると「不当労働行為」にあたり、労働委員会による審査や損害賠償の対象になり得るので注意が必要です。
また、団体交渉が決裂すると、ストライキや法的手続きに発展する可能性があります。
対応のコストを抑えるため、労働組合側の主張にも耳を傾けて、できる限り団体交渉において合意の可能性を模索しましょう。
ベリーベスト法律事務所では、人事・労務に関する企業のご相談を随時受け付けております。
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