会社のパソコンを私的利用する社員への対応とは? 対策も併せて解説

2024年07月08日
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会社のパソコンを私的利用する社員への対応とは? 対策も併せて解説

多くの企業では、会社が貸与したパソコンを利用して、従業員が業務を行っているでしょう。パソコンは取引先や社内でのやり取り、市場調査などのリサーチを行うための必需品といえます。

一方、業務とは無関係なサイトの閲覧や私用メールなど、私的利用をしている従業員がいるケースも珍しくありません。会社のパソコンの私的利用を放置していると、情報漏洩やウイルス感染といったリスクがありますので、企業として適切な対策が求められます。

今回は、会社のパソコンを私的利用する社員への対応方法について、ベリーベスト法律事務所 高松オフィスの弁護士が解説します。

1、会社のパソコンはどこから私的利用にあたる?

会社のパソコンを利用する場合に、どこからが私的利用にあたるのでしょうか。以下では、私的利用にあたるケースについて説明します。

  1. (1)アダルトサイトの閲覧

    業務と関係のないウェブサイトの閲覧は、パソコンの私的利用にあたる可能性があります。特に、アダルトサイトの閲覧については、業務との関連性がないことが明らかであり、職場内でアダルトサイトを閲覧することにより、それを見た他の従業員に不快感を与えるなど悪影響が及ぶことが予想されます。

    したがって、会社パソコンを利用してアダルトサイトを閲覧することは、許されない私的利用と判断されるケースが多いでしょう。

  2. (2)出会い系サイトに登録して私用メールのやり取り

    従業員には、勤務時間中は職務に専念する義務がありますので、会社のパソコンを利用して私的なメールをやり取りすることは、パソコンの私的利用にあたります。

    職務の妨げにならない範囲での私的メールであれば、私的利用にあたるものの処分の対象となる可能性は低いでしょう。しかし、メールのやり取りの頻度および内容によっては処分の対象になる場合もあります。

    過去の裁判例では、勤務中に職場のパソコンを利用して出会い系サイトに登録をし、大量の私用メールのやり取りをしていたという事案について、懲戒解雇が有効であると判断されたものもあります(福岡高等裁判所平成17年9月14日判決)。

  3. (3)個人的なSNSの利用

    最近では、個人でSNSのアカウントを有し、情報の発信を行うことは珍しくありません。しかし、個人的なSNSへの書き込みを会社のパソコンを利用して行った場合には、パソコンの私的利用にあたります。

    特に、SNSへの書き込みの内容が会社に対する誹謗中傷、顧客情報の漏洩、職場内での不適切行動であった場合には、会社の社会的信用が著しく損なわれる可能性があります。そのため、SNSへの書き込みの頻度および内容によっては処分の対象になることもあります。

2、社員に対して検討できる処分

パソコンの私的利用をした社員に対しては、以下のような処分を検討します。

  1. (1)懲戒処分

    パソコンの私的利用をした社員に対しては、懲戒処分の検討をすることになります。もっとも、懲戒処分をする場合には、社員の違反行為と処分の内容が釣り合っていることが必要になります。したがって、軽微な違反行為に対して、懲戒解雇といった重すぎる処分を下した場合には、懲戒処分が無効と判断されることがありますので注意が必要です。

    懲戒処分を行う場合には、以下のような点を踏まえて判断していくとよいでしょう。

    • 会社のパソコンの私的利用の頻度
    • 会社のパソコンの私的利用の内容
    • 業務への支障の有無、程度
    • 会社への影響
    • 業務との関連性
    • 過去の違反行為の有無


    なお、会社のパソコンを私的利用した社員に対する懲戒処分には、処分の軽いものから順に、以下の5つが挙げられます。

    ① 戒告・譴責
    戒告・譴責(けん責)とは、社員に対して将来を戒める(注意する)処分のことをいいます。戒告は、口頭での注意で済むことが多いですが、譴責になると始末書などの提出を求められることもあります。

    ② 減給
    減給とは、社員の賃金を減額する処分のことをいいます。労働基準法では、減給をする場合には、1回あたりの減給額が1日分の平均賃金の半額以下であり、減給総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下でなければならないと定められています。

    ③ 出勤停止
    出勤停止とは、社員に対して一定期間働くことを禁止する処分のことをいいます。出勤停止中は、賃金が支払われない取扱いがなされることが多く、その分給料が減ることになります。

    ④ 降格
    降格とは、役職または職能資格を引き下げる処分のことをいいます。たとえば、部長職から課長職に降職する場合や給与等級が4等級から3等級に引き下げられる場合などがあります。

    ⑤ 諭旨解雇・懲戒解雇
    諭旨解雇とは、懲戒事由に該当する行為をした社員に対して、自主的に退職を求める処分をいいます。諭旨解雇に応じない場合には、懲戒解雇となるケースが多いです。懲戒解雇は、懲戒処分の中でも最も重い処分になりますので、懲戒解雇を選択する場合には、慎重に行う必要があります
  2. (2)会社の情報を持ちだした場合には刑事罰の適用も

    会社のパソコンの私的利用にとどまらず、許可なく会社の情報が記録された文書や記録媒体を外部に持ちだした場合には、窃盗罪(刑法235条)が成立する可能性があります。窃盗罪が成立した場合には、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

    また、社員が持ちだした情報が「営業秘密」にあたる場合には、不正競争防止法違反となり、10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金またはこれらが併科されます(不正競争防止法21条)。

3、会社として対応することは?

社員が会社のパソコンを私的利用している疑いが生じた場合には、以下のような対応が必要になります。

  1. (1)事実確認

    社員による会社のパソコンの私的利用の疑いが生じた場合には、まずは事実確認をするための調査を行います。当該社員に与えていたパソコンの調査を行い、私的利用の頻度、私的利用の内容などを証拠として残しておくようにしましょう

  2. (2)対象社員との面談

    調査の結果、社員による会社のパソコンの私的利用が判明した場合には、本人の言い分を聞くために、対象社員との面談を行います。社員との面談は、懲戒処分を行う前提として弁明の機会を与えるという意味もありますので、必ず行うようにしましょう

    後日、社員から懲戒処分を争われても対応できるように、面談の内容については、しっかりと記録しておくことも大切です。

  3. (3)懲戒処分

    社員との面談の際に、注意や指導を行うことによって社員への対応が終わることもありますが、私的利用の頻度・内容が悪質であったり、注意・指導後も繰り返し私的利用が行われたりしているような場合には、懲戒処分を検討することになります。

    懲戒処分をする際には、処分が無効になるリスクもありますので、どのような処分を選択するかについては慎重に判断する必要があります

4、私的利用の再発防止のために企業がとるべき対策

私的利用が再び生じないようにするためには、以下のような対策が有効となります。

  1. (1)社内ルールの策定

    会社が社員に貸与したパソコンは会社の所有物であり、社内で使用する際はインターネットの接続費用も会社が負担しています。そのため、会社は施設管理権に基づいて、パソコンの利用方法や私的使用禁止などの制限を定めることができます

    再発防止のためには、以下のような社内ルールを策定して、社内掲示板やメールなどで社員に周知するとよいでしょう。

    • 勤務時間中は私的なメールのやり取りをしない
    • 業務とは関係のないウェブサイトを閲覧しない
    • 個人的なSNSに業務に関する書き込みを行わない
    • 許可なくソフトウエアやアプリをダウンロードしない
  2. (2)社員教育の実施

    社内ルールを策定したとしても、社員がそれを正しく理解していなければ十分な再発防止効果は期待できません。そこで、会社のパソコンの利用方法と注意点について定期的に研修会を開催するなどして社員教育の実施をすることをおすすめします。

    その際には、会社のパソコンを私的利用した場合における具体的な処分内容を伝えることも大切です。社員も危機感をもってパソコンの利用に向き合うことができるでしょう。

  3. (3)モニタリングの実施

    会社のパソコンを私的利用していないかどうかをモニタリングすることによって、私的利用を防ぐことができる場合があります。もっとも、インターネットの利用状況を調査する場合には、社員のプライバシーにも配慮した対応が求められます

5、まとめ

会社のパソコンの私的利用が判明した場合には、私的利用の頻度・内容によっては懲戒処分の対象となります。ただし、懲戒処分をする場合には、処分が不当と判断されないよう慎重に対応する必要があります。どのような処分にすべきか判断に迷う場合は、弁護士に相談をすることをおすすめします

ベリーベスト法律事務所では、会社のパソコンの私的利用のトラブル、情報漏洩した場合の対応や労働者との交渉など、経営者や人事労務担当者が抱える問題のサポートをしております。労働問題でお悩みの方は、まずはベリーベスト法律事務所 高松オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています